SF短編集の本。「My Humanity」収録の「allo,toi,toi」の感想とか。

本のこと

どうもどうも、ぶんです。

今日もハヤカワ文庫から出てる「My Humanity」(著・長谷敏司)の話をするよ。

昨日の記事はこっちから「SF短編集の本」

今日は昨日時間足りなくて書けなった「allo,toi,toi」の話をするよ。めっちゃネタバレだと思うよ。

紹介しつつも私見がじゃんじゃん入っていくと思うよ…。

allo,toi,toi

――ITPによる小児性愛者の矯正がグロテスクな結末を導く。

ITPっていうのはこの話の中で登場する技術で、脳に移植手術をして経験者のデータを読ませると、脳で疑似的な回路が出来上がって即席で技術者とか熟練の店長とかになれるって技術よ!

この技術の応用で、犯罪者を矯正できんじゃね?ってことで性犯罪者の矯正のために売り出したいから刑務所にいる性犯罪者に実験に協力してもらおうって話なんですね。

囚人であり被験者になったダニエル・チャップマンと、ITPの研究者であるリチャード・ゲイ、刑務所内でダニエルをいじめるエヴァンズが主な登場人物だよ。エヴァンズは正直いじめるとかいうレベルじゃないえげつねぇことするよ。

ダニエルの感性。好き解釈と齟齬

ダニエルに性犯罪者の脳内で矯正プログラムの実験をお願いしたリチャードの会話の中でケーキを甘味を例えに「好き」に対するお話が出てくるんだけど、ここが面白い。

甘味が好きな人だと好みはそれぞれあると思うけど単純に表現すると「甘いからケーキが好き」って解釈すると思うの。それをダニエルは「人間はケーキが好きだから、それは甘い」って解釈するの。

なんかこの辺でちょっとやべぇなって思った。

言語と脳の情報整理のズレでこうなったんだろうなってリチャードは思うんだけど、やっぱリチャードもやべぇって思うのよ。

この「好き嫌い」を脳がどう整理するかっていうのがリチャードの研究みたいなんだけど、それはまぁさておき、この「好き嫌い」のズレを抱いた状態でダニエルが「子供を好き」になるんだけど、それが性犯罪者にしちゃったんじゃないかって感じよ。

「子供が好き」って常識的に考えると「保育士さん」とか「子供とよく遊んでくれる人」とか大阪でいうと「子供にアメちゃんあげるおばちゃん」とか想像すると思う。別に子供好きではない私の勝手な想像だけどね

ダニエルの脳内に入れられたもの

リチャードはダニエルに移植したITPに「アニマ」を組み込みました。

これはダニエルの脳内で「現実の少女より報酬が大きい」ものだそうです。そんでそれが表面化してない欲求を読み取っていつでも相談に乗ってくれるっていう便利なものだそう。

つかず離れず必要な時に現れて相談に乗ってくれるて最良のカウンセラーになってくれて、自分の欲求とかを外に出さずに収めることができるそうだ…。外に欲求を求めて行動しちゃったら犯罪になる行為も自分の中だけで終わらせれば犯罪にならないってことね!

想像だけなら自由!!!

なるほど、これがうまいこといって世の中の性犯罪者が行動起こさんかったら犯罪減るよなぁ。リアルではむっずかしい話やけど。

リチャードは「アニマ」の実験を引き受けてもらう代わりに、ダニエルがITPを使ってテレビを見れるようにしてくれます。脳内でテレビ見れるってすごい技術やね。

脳内テレビ鑑賞してるダニエル

この実験に協力することよってダニエルは「脳内テレビ」と一人で使える「住居房」を手に入れます。

エヴァンズと同房だった頃みたいにボコボコにされたりすることもなく脳内テレビを楽しむダニエル。

見るのは子ども番組である…(ここでもやべぇって思った)

わかりやすいし、不快なことがない。何より子どもが出ているからとのこと。

ダニエルはどんな子どもを見ても可愛いと言う。黒人白人エスニック系アジア人。どんな子どもも元気いっぱいな姿は素晴らしい。何より、笑顔が最高だと。こんなにたくさんの子どもの笑顔を見て癒されないわけないと彼は思います。

すごいよ!子供に対する愛情が無限大じゃん。

そしてダニエルの一言

「性的すぎる」

なんでやねん!!!

性的要素1個もなかったやん!!

えぇぇ…やっべぇよダニエル。

ささやくアニマ

ITPを移植されてからダニエルの気分が落ち込んだとき、囚人にリンチされた後、一人になると耳元で少女のささやき声が聞こえてきます。

allo(もしもし),allo(もしもし)」と。

それがダニエルに埋め込まれたアニマで、この声はダニエルの聴覚神経が直接刺激されて聞こえているので、ダニエルにしかわからない声です。

その声がダニエルの囚人生活に少しのしあわせをもたらします。

視界の端に映る少女の姿。少女は顔こそ見せてくれないけれど、そこに存在するようにぬくもりをくれます。

冷めた意見を言うと脳に埋め込んだITPが見せる幻覚なんだよね。

アニマと来るはずのない未来の話をしたりして、懲役100年のダニエルはずっとこの生活でこの刑務所から出れないのを思い出して辛くなったりします。感情移入して読んでるとほんまきっついなってなる。

アニマとの会話をしていくうちに、ダニエルは自分が殺してしまった少女のことを思い出してしまう。

犯行を描いた文章は残酷な描写が多いんだけど、ダニエルの独りよがりな気持ちの方が怖いんだよね。自分が向けている愛情が相手からも返ってくるって思ってる。

アニマとの会話が始まるとダニエルは高揚と安心を与えられたり、自分の犯したことを思い出して感情か激しく揺れて読み応え抜群の文章が続きます。

その後、ダニエルと再び面会に来たリチャード側の視点になるんですけど、

アニマと会話するダニエルを傍から見た時の異常さが垣間見れます。

ダニエル側の視点から読んでた時はあんまし気にならなかったのに、リチャード側から見るとちょっと寒くなる。

ダニエルの異常性とか狂気に引っ張られないようにツッコミを脳内で入れつつ読んでたけど、この先ぐらいからマジでツッコミもできず黙々と字を追ってしまうんですよ…。

「好き嫌い」の整理

リチャードは「アニマが好き嫌いを整理してくれる」と言った。

実際のところダニエルは「自分にとって価値ののある素晴らしいもの=好き」というなんとも曖昧な形で「好き」というものを一括りにしていた。

無限に入る「好き」の箱の中でいろんなものが捏造されていって、ダニエルは「好き」を中心に物事の価値を整理していっていたんですねぇ。

アニマがダニエルの「好き」をうまく整理していった結果、刑務所での生活が好きになりつつあった、と。

マジかよ…。アニマすげぇな…。

アニマとの対話、好き嫌いの整理を経てダニエルは自分が都合よく歪めていた認識を、ほどくことができます。

自分がありふれた性犯罪者で、重犯罪刑務所にいて、懲役100年を食らってる囚人だとちゃんと認識できるようになります。

この再認識は絶望じゃん…って思ったんだけど、すかさずアニマがストレスを緩和させるために慰めてくれる。優秀すぎんよ…。

小児性愛は終わったかと思いましたが、ダニエルは彼女(アニマ)のことを愛しています。刑務所から出られないけれど、彼女(アニマ)が好きだったからマシになりたいと思うようになります。

そして昨日までの自分から変わるために、これまでしなかったことをしようと思い、新しい一歩を踏み出します。

いつも他の囚人にダニエルを袋叩きの生贄としてささげやがるエヴァンズに挨拶をします。

「allo(こんにちは)」

アニマが呼び掛けてくれた言葉ですね。

その一言でダニエルは殺されます。

死にかけのダニエルから送られてくるメッセージ

リチャードはよく暴行を受けるダニエルのITPに頭で考えたことがダニエルの方に文字化されて送られてくるようにしていました。

それが最終的に刑務所内で暴動の被害者になっているダニエルから

朝イチで死の実況が届くことになるわけです。

朝飯の前に来るんだよ…。

ダニエルからは「痛い」が連発されたメッセージ、「頭をこじあける痛い」「痛いスプーン」「刺さる」「死んでしまう」など命の危機を知らせるメッセージが届く。

どんな目に遭ってるのか大体わかると思うんだけど。

どつかれまくったあげくにスプーンで頭蓋骨割られようとしてるんだよね…。

ダニエルは「アニマ」を通じてリチャードと繋がっているように感じているのがわかり、リチャードは震えます。ダニエルは多少なりと分別がついたようですが、リチャードから見ればどれだけ改心しても小児性愛者で犯罪者だ。

リチャードには妻と娘がいます。ダニエルが殺した子供と同じぐらいの娘です。父親としてダニエルのような存在は自分とは真逆にいる異常者から繋がってると思われたら怖いでしょうよ。

そんな中、娘が「朝ご飯よ~」とリチャードを呼びに来ます。

リチャードは「パパのこと好きか?」と娘に聞きます。

娘は「パパのこと好きだよ」と、父親から聞かれた「好き」の言葉に重畳されたものを読み取れないまま素直に答えます。

ここでリチャードと娘の間に「好き」の誤読が生じています。

視線を合わせた娘に妻と似た切れ長の目を覗き込んだリチャードは娘にどんな感情を持っていたのか。

その時のリチャードの中にダニエル・チャップマンは存在したのかしなかったのか。

この話に限ってやけど「好き」の誤読で

ロリコンになる可能性って誰にでもあるんちゃう?

って植え付けられた気がする。

最後に

「allo,toi,toi」は読み終わった後、本を閉じたらちょっと安心する感じでした。

普段考えることない異常性にちょいちょい触れることになったからね。てゆーか最後にあんな死に方されたら読んでる方もあばばばばば!!!ってなるよ…。

個人的にこういう本は異常性や狂気じみたものに触れられるから読んでて楽しい。

長いこと書いたけど(実際読むと少ないかもしれへんけど)この記事最後まで読んでくれる人おるんやろか…と思う。

読んできた本の感想って難しいね…。

読み返して噛み砕いて書くって感じですごい時間かかった…。

もっとノリと勢いで書いたほうがええような気もするけどまぁいいか。

ではまた。

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